2017年04月29日
【書評】観光立国の正体
藻谷浩介・山田桂一郎『観光立国の正体』新潮社、2016 読了。

まさに『デフレの正体』の藻谷浩介さんと「観光カリスマ」の山田桂一郎さんとのコラボならではのタイトル、そして内容であった。
本書のキーワードは
「ブルガーゲマインデ」と「感幸地」
である。
ブルガーとはドイツ語で「市民/住民」のことで、
「住民自治経営組織(役所や役場のような行政機関とは違う住民主体の独自組織)」
の意味とのである。
ともあれ、これまで観光というのは、ややもすると、観光協会や旅行代理店、行政が主導しがちであったが、これからの観光というのはそうではなく、スイスのツェルマットのようにブルガーゲマインデが中核となり、持続可能で自律的な「感幸」を作ることが重要であるという。
確かに日本では基本的に
「訪れたいまちと住みたいまち」
が別個に議論されているきらいがある。
その証拠に、いわゆる観光地であるにも関わらず、人口減少が止まらず、賛否はともかくとして「消滅可能性都市」にノミネートされているまちなどはその典型なのだろう。
本書ではそうではなく、まさにリピーターをどのように作るか、すなわち
「訪れたいまち=住みたいまち」
にすべきではないか、と投げ掛ける。
色々と新しい気づきがあったのだが、詳細は読んで頂くとして、ここでは私が響いた言葉だけを列挙しておきたい。いずれも至言ですね。
(藻谷さんは基本的に対談しか登場しないので、表記がなければすべて山田さんの発言)
・「住民の生活満足度を満たすことを最優先して地域を育てていくと、住民の表情や態度はごく自然に生き生きとしてくるもの」(p.26)
・「高品質・高付加価値体質と共に質的向上を続ける経営体質」(p.39)
・「リピーターあってのサービス業」(p.45)
・「観光だけではまちおこしはできない」(p.47)
・「観光は世界のGDPの約1割を占める」(p.51)
・「ヨーロッパを始め世界の観光統計は全て「延べ泊数」」(p.53)
・「地域のやる気の人々が少人数でも良いので団結し、目先の利益を超えて「一緒に稼ぐ」ことを前提に、地域内利潤を最大化させる」(p.60)
・「お客様一人一人の消費額を高めるためには、(中略)むしろ一分一秒でも長く「時間を作ってもらう」発想が重要」(p.68)
・「住民参加ではなく、行政参加」(p.82)
・「一期一会は一語一笑」(p.105)
・「地産地消より地消地産」(p127)
・「地域経営を担う自治体の多くは、理念がないか、不明瞭の状態のまま」(p.130)
・「マーケティングとは、顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動の全て」
(p.158)
・「今、国内旅行は個人客が中心で、周遊よりも一箇所で連泊を選ぶ方が多くなっています」(p.161)
・「デスティネーションキャンペーン(中略)はドーピングキャンペーンと呼ばれています」(p.163)
・「マーケティング4.0(自己実現満足)では、顧客が享受する商品・製品・サービスにより要望、欲求が達成されたかどうかの結果が重視される」(p.167)
・「ヤクゾンビ(役職だけを欲しがる役害)」(p.179)
・(藻谷)「経営学では、SWOT分析が流行っている(中略)けど、これは観光業の分析ではワークしない。なぜか。SWOTはお客は誰かによって変わるから」(p.205)
・「一度外に出るのは良いと思うのですが、二度と帰ってこないことが問題」(p.240)
最後に目次は以下のとおりである。
(参考)『観光立国の正体』目次
はじめに 観光業界の「ルパン」 藻谷浩介
I 観光立国のあるべき姿 山田桂一郎
第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス
「非日常」よりも「異日常」を/リピーターを獲得せよ/常に生き残るために必死な国/英国富裕層によって「発見」されたアルプスの山々/目前の利益を追わず、「ハコモノ」を作らない/国そのものをブランド化/日本の観光地がダメになった理由/寂れた観光地に君臨する「頭の硬いエライ人」/「観光でまちおこし」の勘違い/「人手がかかる産業」を大事にせよ
第2章 地域全体の価値向上を目指せ
キャパシティを増やさず、消費額を引き上げる/ブルガーゲマインデという地域経営組織/足の引っ張り合いを避け、地域全体の価値向上を/地元で買う、地元を使う/スイスの観光局は自主財源を持った独立組織/自然と調和した景観を保持/馬車と電気自動車がもたらす「異日常」/「時間消費」を促すことが「地域内消費額」をアップさせる/ガイド・インストラクターは憧れの職業/最も重要なのは人財
第3章 観光地を再生する──弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から
地域振興に必要な住民主体の活動/忘れ去られた「高度成長期型」の観光地/「住民主体、行政参加」の組織に一本化/住民ならだれでも参加OK/株式会社を設立、初年度から黒字に/エコロジーとエコノミー/外国人旅行客に大人気の「里山体験」/「なんにもない」から「クールな田舎」へ/とやま観光未来創造塾/「新幹線効果」の誤解/国際水準とユニバーサルツーリズム
第4章 観光地再生の処方箋
「ピラミッド型のマーケット」を構築せよ/富裕層を取りはぐれている日本/北海道の「一万円ランチ」に人気が殺到した理由/負のスパイラルを防げ/格安ホテルチェーンが地域を壊す/近隣のライバルと協力した方が儲かる/休日分散化を真剣に考えよう/社会全体に「観光」を位置づける重要性/「地産地消」より「地消地産」/高野山が外国人に高評価のワケ/明確な将来像を描け
II 観光立国の裏側 藻谷浩介×山田桂一郎
第5章 エゴと利害が値域をダメにする
「地域ゾンビ」の跋扈/間違った首長が選ばれ続けている/「改革派」にも要注意/行政が手がける「劣化版コピー」の事業/補助金の正しい使い方/ボランティアガイドは「ストーカー」と一緒/観光業界のアンシャンレジーム/JRの「ドーピングキャンペーン」/顧客フィードバックの不在/竹富町の革新的試み/自治体の「旅行会社依存体質」/有名観光地でゾンビたちが大復活! /観光庁の構造的問題
第6章 「本当の金持ち」は日本に来られない
世界一の酒がたったの五〇〇〇円/「アラブの大富豪」が来られるか/近鉄とJR東海という「問題企業」/「ポジショニング」を理解せよ/野沢温泉と白馬/悩ましい大手旅行会社との関係/玉石混淆のリクルート
第7章 「おもてなし」は日本人の都合のおしつけである
北海道ガーデン街道/「熱海」という反面教師/せっかく好循環が生まれても……/大河ドラマに出たって効果なし! /戦術の成功、戦略の不在/頑張っても大変な佐世保/「爆買い」に期待するなかれ/「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである/医療ツーリズムでも「マーケットイン」が不在/カジノが儲かるという幻想/それでも日本の観光には無限の可能性
おわりに 山田桂一郎
平成29年4月29日
杉岡 秀紀 拝

まさに『デフレの正体』の藻谷浩介さんと「観光カリスマ」の山田桂一郎さんとのコラボならではのタイトル、そして内容であった。
本書のキーワードは
「ブルガーゲマインデ」と「感幸地」
である。
ブルガーとはドイツ語で「市民/住民」のことで、
「住民自治経営組織(役所や役場のような行政機関とは違う住民主体の独自組織)」
の意味とのである。
ともあれ、これまで観光というのは、ややもすると、観光協会や旅行代理店、行政が主導しがちであったが、これからの観光というのはそうではなく、スイスのツェルマットのようにブルガーゲマインデが中核となり、持続可能で自律的な「感幸」を作ることが重要であるという。
確かに日本では基本的に
「訪れたいまちと住みたいまち」
が別個に議論されているきらいがある。
その証拠に、いわゆる観光地であるにも関わらず、人口減少が止まらず、賛否はともかくとして「消滅可能性都市」にノミネートされているまちなどはその典型なのだろう。
本書ではそうではなく、まさにリピーターをどのように作るか、すなわち
「訪れたいまち=住みたいまち」
にすべきではないか、と投げ掛ける。
色々と新しい気づきがあったのだが、詳細は読んで頂くとして、ここでは私が響いた言葉だけを列挙しておきたい。いずれも至言ですね。
(藻谷さんは基本的に対談しか登場しないので、表記がなければすべて山田さんの発言)
・「住民の生活満足度を満たすことを最優先して地域を育てていくと、住民の表情や態度はごく自然に生き生きとしてくるもの」(p.26)
・「高品質・高付加価値体質と共に質的向上を続ける経営体質」(p.39)
・「リピーターあってのサービス業」(p.45)
・「観光だけではまちおこしはできない」(p.47)
・「観光は世界のGDPの約1割を占める」(p.51)
・「ヨーロッパを始め世界の観光統計は全て「延べ泊数」」(p.53)
・「地域のやる気の人々が少人数でも良いので団結し、目先の利益を超えて「一緒に稼ぐ」ことを前提に、地域内利潤を最大化させる」(p.60)
・「お客様一人一人の消費額を高めるためには、(中略)むしろ一分一秒でも長く「時間を作ってもらう」発想が重要」(p.68)
・「住民参加ではなく、行政参加」(p.82)
・「一期一会は一語一笑」(p.105)
・「地産地消より地消地産」(p127)
・「地域経営を担う自治体の多くは、理念がないか、不明瞭の状態のまま」(p.130)
・「マーケティングとは、顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動の全て」
(p.158)
・「今、国内旅行は個人客が中心で、周遊よりも一箇所で連泊を選ぶ方が多くなっています」(p.161)
・「デスティネーションキャンペーン(中略)はドーピングキャンペーンと呼ばれています」(p.163)
・「マーケティング4.0(自己実現満足)では、顧客が享受する商品・製品・サービスにより要望、欲求が達成されたかどうかの結果が重視される」(p.167)
・「ヤクゾンビ(役職だけを欲しがる役害)」(p.179)
・(藻谷)「経営学では、SWOT分析が流行っている(中略)けど、これは観光業の分析ではワークしない。なぜか。SWOTはお客は誰かによって変わるから」(p.205)
・「一度外に出るのは良いと思うのですが、二度と帰ってこないことが問題」(p.240)
最後に目次は以下のとおりである。
(参考)『観光立国の正体』目次
はじめに 観光業界の「ルパン」 藻谷浩介
I 観光立国のあるべき姿 山田桂一郎
第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス
「非日常」よりも「異日常」を/リピーターを獲得せよ/常に生き残るために必死な国/英国富裕層によって「発見」されたアルプスの山々/目前の利益を追わず、「ハコモノ」を作らない/国そのものをブランド化/日本の観光地がダメになった理由/寂れた観光地に君臨する「頭の硬いエライ人」/「観光でまちおこし」の勘違い/「人手がかかる産業」を大事にせよ
第2章 地域全体の価値向上を目指せ
キャパシティを増やさず、消費額を引き上げる/ブルガーゲマインデという地域経営組織/足の引っ張り合いを避け、地域全体の価値向上を/地元で買う、地元を使う/スイスの観光局は自主財源を持った独立組織/自然と調和した景観を保持/馬車と電気自動車がもたらす「異日常」/「時間消費」を促すことが「地域内消費額」をアップさせる/ガイド・インストラクターは憧れの職業/最も重要なのは人財
第3章 観光地を再生する──弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から
地域振興に必要な住民主体の活動/忘れ去られた「高度成長期型」の観光地/「住民主体、行政参加」の組織に一本化/住民ならだれでも参加OK/株式会社を設立、初年度から黒字に/エコロジーとエコノミー/外国人旅行客に大人気の「里山体験」/「なんにもない」から「クールな田舎」へ/とやま観光未来創造塾/「新幹線効果」の誤解/国際水準とユニバーサルツーリズム
第4章 観光地再生の処方箋
「ピラミッド型のマーケット」を構築せよ/富裕層を取りはぐれている日本/北海道の「一万円ランチ」に人気が殺到した理由/負のスパイラルを防げ/格安ホテルチェーンが地域を壊す/近隣のライバルと協力した方が儲かる/休日分散化を真剣に考えよう/社会全体に「観光」を位置づける重要性/「地産地消」より「地消地産」/高野山が外国人に高評価のワケ/明確な将来像を描け
II 観光立国の裏側 藻谷浩介×山田桂一郎
第5章 エゴと利害が値域をダメにする
「地域ゾンビ」の跋扈/間違った首長が選ばれ続けている/「改革派」にも要注意/行政が手がける「劣化版コピー」の事業/補助金の正しい使い方/ボランティアガイドは「ストーカー」と一緒/観光業界のアンシャンレジーム/JRの「ドーピングキャンペーン」/顧客フィードバックの不在/竹富町の革新的試み/自治体の「旅行会社依存体質」/有名観光地でゾンビたちが大復活! /観光庁の構造的問題
第6章 「本当の金持ち」は日本に来られない
世界一の酒がたったの五〇〇〇円/「アラブの大富豪」が来られるか/近鉄とJR東海という「問題企業」/「ポジショニング」を理解せよ/野沢温泉と白馬/悩ましい大手旅行会社との関係/玉石混淆のリクルート
第7章 「おもてなし」は日本人の都合のおしつけである
北海道ガーデン街道/「熱海」という反面教師/せっかく好循環が生まれても……/大河ドラマに出たって効果なし! /戦術の成功、戦略の不在/頑張っても大変な佐世保/「爆買い」に期待するなかれ/「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである/医療ツーリズムでも「マーケットイン」が不在/カジノが儲かるという幻想/それでも日本の観光には無限の可能性
おわりに 山田桂一郎
平成29年4月29日
杉岡 秀紀 拝
Posted by 杉岡 秀紀 at 00:00│Comments(0)
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